最高裁判所第二小法廷 昭和34年(あ)2120号 決定 1960年4月08日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人古屋東の上告趣意第一点について、
所論は事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであって適法な上告理由に当らない。(なお原審がその支持する第一審判決の挙示する証拠によって、被告人が同判決判示第一の佐々木正雄から受領した金三万円、同判示第二の米沢直之から受領した金二万円は、いずれも、被告人において、更にこれを選挙人又は選挙運動者に供与又は交付すべき趣旨ではなく、被告人の裁量に一任する趣旨の下に供与を受けたものである旨認定したのは正当であって、記録に徴し原判決には所論のような事実誤認は存しない。されば被告人には、右金三万円及び金二万円の各全額について公職選挙法二二一条一項四号の受供与罪が成立することは当然であり、被告人が供与を受けた右金員を以て、その独自の裁量に基いて更に他を買収したとしても、それは従前自ら所有していた金員を以て新たに買収をした場合と何等異るところはなく、前の受供与罪と後の供与罪との間に吸収の問題を生ずべき余地は存しない。従って後の供与額が前の受供与額の一部分であった場合には、その部分については後の供与罪のみが成立し、残部についてのみ前の受供与罪が成立すると解することはできない。これと同旨に出でた原審の判断は正当である。所論引用の判例は、買収金員の受交付者がその金員の一部を更に第三者に供与又は交付した事案に関するものであるから、本件には適切を欠くものである。)
同第二点について、
所論は量刑不当の主張であって適法な上告理由に当らない、また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田 克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)